サムライスピリッツ零
ストーリー&エンディング考察9
武侠の漢編

2005年5月24日執筆:第一稿

劉雲飛
公式を見てない人用の簡易紹介
仙術を駆使する武侠。千年前、闇キ皇(くらきすめらぎ)に身体を乗っ取られた。
最愛の妻を手に掛け、仙道の師を死闘の末に屠り、八人の弟子によって封印され、千年もの時を眠らず、自らの罪を問い続けて来た。
闇キ皇の復活によって封印が解け、雲飛は最期の戦の場、倭国は日輪を目指して飛翔する。
格好良い老人キャラで、色物ではない中国キャラという、SNKにしては珍しい人物。名前はリュウ・ユンフェイと読む。
「武装連金」、「るろうに剣心」の和月伸宏がデザインを手がけた新キャラ。
オープニング
森の中
 森の中、風に乗って浮いていた雲飛が着地する。
雲飛
「……事態は芳しくない。すでに、黒い気配が方々にみなぎっておる。あのときのワシに匹敵する憑代を見つけたか。」
 僅かに顔を上げ、空を見る。
雲飛
「直には行けぬか。歪な風もある これほど黒い気配が満ちておれば、鳥すらも飛べまい。」
 目を閉じてうつむく。
雲飛「良い。ならば地を這ってでも逝くのみ。待っておれ……闇キ皇。貴様は千年の刻を待ったであろう。だが、ワシも待っておった。貴様を滅し、自身の罪を償う刻を。」
 雲飛、風に乗って浮き上がる。
雲飛
「ワシの如き惨事、二度と起こしてはならぬ。刻は然程残されてはおるまい。闇キ皇よ。この身、この命を賭して貴様を冥府の底に沈めてくれん!」
 雲飛、急速に飛翔し、一瞬でフレームアウト。
1〜4人目勝利後
1人目:惨事になる前に、食い止めねばなるまい。
2人目:荒廃しておるが元は美しい地であったろうな。闇キ皇に狙われるのも然り。
3人目:この惨状は目に余る。民草は国の宝。いとわねばならぬものを……
4人目:この忌まわしい気、忘れようはずもないわ……。感傷とは、ワシも老いたな。
小ボス「萬三九六(よろず・さんくろう)
(場所ランダム)
開始前デモ
 次の対戦相手が吹っ飛んで来て、夢路登場。
夢路「少しは楽しめると思いましたが……失望させてくれますね」
 こちらに気づく。
夢路「おや……いささか場違いな御仁ですが……察するに、大陸の武芸者。それもかなりの達人とお見受けいたします。日輪の地に如何なる御用件でありましょうか? このような機会、またとありますまい。……凶と出るか、吉とでるか。我旺様に仕えるに値するか、試させていただきましょう。」
雲飛「――此大事也、不可倉卒。剣を抜からば死合うのみ。覚悟は良いな?」
 ステージに画面が切り替わって三九六の濃い顔がバストアップで登場。
三九六「ちょっと待てぇ! 次は俺様の番だぜ! が〜はっはっはっは! 鬼と恐れられたこの俺様に勝てるかなぁ? んん〜?」
 夢路の前に三九六が現れ、木槌の上に足を載せて力を誇示する。
夢路「いいでしょう。お任せします。次に会うときは我旺様に与する同志であると期待しておりますよ。」
 夢路跳び去る。
雲飛「――人生幾何、譬如朝露。死に急ぐか、愚かなる者よ。」
三九六「なんだと、てめぇ! ぶっ殺してやる!」
5人目(萬三九六)〜8人目勝利後
5人目:我旺……。そやつが、今の憑代か? ……闇キ皇よ。
6人目:兵を集め、戦を起こし、覇を目指すか……。
7人目:皆、闇キ皇に踊らされておることに気付かぬか……。
8人目:予想より事が急いておる。この先、油断は許されぬな。
中ボス「黒河内夢路(くろこうち・ゆめじ)
黄泉ヶ原
開始前デモ
 戦闘ステージをバックに、夢路バストアップで登場。
夢路「やはり、あなたでしたか……。三九六の手に負えぬ気はしてました。素性の知れぬ御仁ですが今一度、問います。我旺様に仕える心積もりはありませんか?」
雲飛「――彼所求者、於我瓦石耳。心眼を開け。己が手にした物の重さを知れ。さもなくば……散るのみぞ。」
夢路「残念です。まぁ……期待はしておりませんでしたが。されど、味方でなければ……敵と言わざるを得ません。返り血で服が濡れるのは好ましくありませんが……黒河内夢路、参る!」
中ボス勝利後
雲飛「――君子固窮、小人窮欺濫笑」
最終ボス「兇國日輪守我旺(きょうごく・ひのわのかみ・がおう)
戦場(正式名称不明)
開始前デモ
 戦闘ステージをバックに、我旺バストアップで登場。会話セリフとは別に我旺の固定ボイスが流れます
ボイス(我旺)「我が道の後ろには、死屍累々……。鬼となりてゆくは覇道……夢幻の果て!」
我旺「夢路を倒せしますらおはうぬか。よい覇気をしておるわ!」
雲飛「――今不撃必為後患。直に恨みなど無いが……手を出してはならぬ物に手を出したその報いと知れ。」
我旺「國賊に与する下衆め! ならば聞けい! 我が志は、國賊徳川を打ち滅ぼし、真のますらおによる國を築くこと。ならば! うぬの如きますらおは得難き宝であるとは言え我が覇道の仇と成るなれば斬って捨てるもやむを得まい。ゆくぞ、ますらおよ! 死して時代の礎となれぃ!」
一本勝利後
戦場→地獄絵図(正式名称不明)
闇キ皇(くらきすめらぎ)への変身デモ
我旺「ふははははっ! 震えが止まらぬわ! うぬの如きますらおと相対する喜び、久しく忘れておったわ! だが、我が覇道、もはや曲がることも許されぬ。されど止まる事も許されぬ。ワシの心震わせしますらおよ! 礼を言おうぞ。最期に人の心を思い出したわ。そして……人を捨てる決意も固まったわ! 闇キ皇よ! 我が魂、存分に食らえぃ!」
 我旺、鎧武者姿に変化する。背景の戦場が一瞬で壊滅する。空には黒雲が渦を巻き、戦場は緑と青の炎が燃えさかる地獄絵図に。
雲飛「――智者不後時、勇者不留決。闇キ皇よ! 千年の刻を経て……断罪の刻は来たり! 我が身、すでに不退転。逝くなれば因果の果てまで供をせい!」
死合開始〜決着
エンディング
 地獄絵図の戦場の空から、画面が下にスクロールすると、雲飛と地面に片膝をついた我旺がいる。我旺は闇キ皇化しておらず、肩に十字槍を乗せている。
我旺「うぬほどのますらおに敗れるならば、本望……。我が天命、もはや尽きたわ……死ぬべき刻に死ねぬは漢の恥。ワシの首、討――!?」
 雲飛と我旺の間に闇キ皇出現。我旺は倒れ、雲飛は剣を構える。
闇キ皇
「怨おおお怨ぉおん!」
 雲飛、構えを解く。
雲飛「憑代を失い、自我が暴走しおったか!? ……だが、千年前と同じというわけにもいかぬ! 闇キ皇よ! 貴様は千年前、ワシと滅ぶべきであったと心得よ!」
 雲飛、風に乗って浮き上がり、闇キ皇に突進。闇キ皇の中に入って同化する。
闇キ皇(雲飛)「ぐぬおおぉぉぉッ! 完全にはおさえられぬ! ワシも老いたか……!」
 闇キ皇、十字槍を振りかざしながら激しく明滅する。
闇キ皇(雲飛)「立てぃ、我旺! これが、貴様に憑依していたモノの正体! このような黒い力に頼って國を獲ろうなどと、その性根が國を辱めておるぞ! 長くは……もたぬ! ワシを討て! 闇キ皇を討て、我旺! 己自身が、貴様の唱えし真のますらおであらば、己の為すべき事を為せ!」
 倒れていた我旺、身を起こして片膝をつく。
我旺
「國が……國が哭いておるわ……このワシが至らぬばかりに! うぬこそが真のますらお……この我旺、心洗われたわ……。」
 我旺、十字槍を構えて立ち上がり、闇キ皇を突く。
闇キ皇(雲飛)
「ぐがああぁぁあぁぁッ!」
 闇キ皇、我旺に向き直り、突く。
我旺「おおおぉぉぉおぉぉッ!」
 我旺、崩れ落ちそうになり踏ん張るも、片膝をつくが堪えるように全身を震わせる。
闇キ皇(雲飛)
「まだ、生きておるぞ! 未熟者! ワシが何とかおさえとるうちに殺れッ! 殺らぬかッ! 貴様の魂、ワシに示せえッ!」
我旺「この兇國日輪守我旺……! 堕ちるとも、一己のますらお……! 逝くぞ!!」
 我旺、立ち上がると闇キ皇に詰め寄り、胸ぐらを掴んで頭突きを喰らわせる。
 画面が白くフェードアウトし、森の中に切り替わる。
 白い大陸風の装束を纏った仙女のような女性が両手を広げて浮いており、それに見守られるようにして、雲飛が宙に倒れている。
雲飛「永かった……。妻よ、千年も待たせたこと 許せよ……。これでようやく、お前の元に……逝ける……。」
 雲飛と女性を残して背景が真っ暗になり、暗転。
 雲飛ED 了
補足と考察
 零を代表する良エンドの一つ。
 ある意味では我旺エンドでもある。これぞ益荒男、これぞ漢、武侠かどうかはよくわからん。ひたすらに熱いが、これが公式小説でも使われている。公式小説はもっと熱い。

 雲飛は千年前の大陸で名を馳せた、仙の法を修めた武侠。
 凄まじき力を持った師と、最愛の妻、良くできた八人の弟子に恵まれていた。そんな彼のどこに闇キ皇につけこまれる隙があったのかは解らない。
 確かなのは千年前、闇キ皇に憑かれ、破壊と殺戮、暴虐の限りを尽くしたという事。まず最初に妻を殺め、雲飛を止めようとしてくれた偉大な師と十日十晩戦い続けた後に殺めた所を、八人の弟子達が身を挺して封印したという事。
 雲飛は封印されてからの千年、眠ることをせず、自らの罪の重さを見つめ続けてきた。

 そのような背景を知った上で彼の物語の最終章を供にすれば、なんとも熱い気持ちになる。
 劉雲飛、コンプレックスは「償いきれぬ罪を犯してしまったこと」。尊敬する人は「千年前、我を失った自分を封じてくれた弟子たち」。
 作中オープニングは、公式サイトの雲飛ストーリーとほぼ同じだが、最後にこのような一文がある。
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 雲飛は飛び立つ。
 これが最期の戦。
 還る場所は妻の元と誓いを立てて。
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 好みのタイプは「千年前に死去した妻」と明言しており、千年も想い続けるほど愛していたのに、闇キ皇に憑かれて一番最初に殺したのがその妻だったのだ。悲劇への悔いと己への叱咤はいかほどのものだったのか。雲飛は言葉の節々に毒舌が見え隠れするが、嫌いなものに「闇キ皇に憑かれた弱き己の心」とあることから、自分を高く置いているのではないという事は解る。
 恐らくは元来プライドが高かったのだと推測する。闇キ皇に憑かれた時の回想で「師の教えを全て破棄することに躊躇しなかった、脆弱すぎた心」とある。あくまでも推論だが、雲飛は師を尊敬しながらも、自らの力を過信していたのかも知れない(節々に残る毒舌がその名残ではないか)。無論これは雲飛を嫌な人間だったと断ずる訳ではない。
 ただ単に自らを高く置く人物なのだったら、八人もの弟子が命を賭けて封印しようとはしないだろう。いくら師との戦いで疲弊していたとはいえ、闇キ皇と化した雲飛を封印できる力量を持っており、そこまで育てたのは雲飛なのだ。そうまでなるにはよほどの年月と忍耐が必要であり、雲飛に反意持っていては無理だろう。ということは、雲飛とは人を惹きつける魅力と器を持った人物だったと解る。私の推論は、雲飛はそのような人物でありながらも、心の奥底に闇キ皇のつけこまれる隙のある(普段は理性で充分抑えられる程度の)高さの誇りや自信が眠っていた、というものである。

 さて、雲飛でプレイしていて度々思うのは、「何を言っているのか解らない」という事。具体的に言うと、漢文のセリフが大半の日本人には意味不明だという事(大半だよね? 普通わからんよね?)。
 そこはかとない自信のなさをひた隠しながらも、なんとか調べてみた結果を掲載してみよう。なお、素人の意訳なので間違いに気付いた方はご指摘をお願いします。

――此大事也、不可倉卒(対・三九六前の夢路に)
 「世の大事だ、慌てるな」
 三國志第32巻(蜀書2巻-先主伝)に先主(劉備)の言葉として同じものがある。
――人生幾何、譬如朝露(対・三九六後)

 「人の一生などどれほどのものか、例えて言うなら日を受ければ消えてしまう朝露のような儚いものだ」
 曹操の短歌を纏めた「短歌行」にある有名な詩の一節。元の短歌は前後の句と合わせると「酒を飲んだら大いに歌おう。人生がどれほどのものか。例えて言うなら日を受ければ消えてしまう朝露のようにはかなく、過ぎた日々ばかりが多い。嘆かずにはいられない、憂わずにはいられない。何を持ってこの憂いを晴らそうか、ただ酒があるのみだ」となる。三國志演義第47回では、赤壁の戦い前日に詠まれたとされている。
――彼所求者、於我瓦石耳(対・夢路前)

 「彼の求めるものは、ワシにとってはガラクタと同じ、無用なものだ」
 三國志第47巻(呉書2巻)で、魏帝・曹丕に膨大な宝物を要求された際の呉王・孫権の言葉。高価な宝物も、国や民とは比べられないという意味。
――君子固窮、小人窮欺濫笑(対・夢路後)

 「徳のある人間は困窮しても人道を信じて気骨を失わないが、徳のない人間は困窮すると人道に外れた行いをする」
 孔子の論語第8巻(衛靈公第十五 )に同じものがある。教えとしては、誰でも苦難に見舞われるが、そこでどのような行動をするか。困難にあって己を磨く事で、立派な人物になれる、という意味を含んでいる。
――今不撃必為後患(対・我旺)

 「今討たねば、必ず後の憂いとなる」
 三國志第1巻(魏書1巻-武帝紀)で曹操が劉備を評した言葉に同じものがある。
――智者不後時、勇者不留決。(対・闇キ皇)

 「智者は時に遅れず、勇者は決断を躊躇わない」
 後漢書第71巻、皇甫嵩朱伝の董卓の言葉に同じものがある。

 となった。調べて気付いたが、全て元ネタがある。といっても、よほど好きでなければ思いつかないだろうという内容なので、安易にパクリとは言わない。逆に、よくここまで場面に合わせた元ネタを探してきたものだと驚くばかりだ。
 調べるにあたって漢語辞書数冊を利用したが、それと同程度、各種専門サイトさんや、中国の専門サイトさんを参考にさせていただいた。一応意図した丸写しはないはず――というか、だからこそ間違っている可能性がある。

 一見何を言っているのか解らないセリフも内容が解ればまた格好良い。
 そんな彼と我旺のやり取りもまた格好良い。
 我旺は(容量の都合上)人の話をまったく聞かない所や、天下太平だったはずの江戸時代で、なぜかいくつもの戦場を駆け回ったという点、どうやら高い身分の出身ではないという点などの設定の矛盾(もしくは存在の強引さ)からか、あまり好意的な意見を聞かないが、この雲飛とのやりとり(&公式小説)を見ると、それさえも許せてしまう気がしてくる。言うなれば「いいもん見せてもらったぜ」という心境だ。
 雲飛や我旺が気になったor気に入った人は、是非とも一度公式小説に目を通して欲しい。シナリオライター自身が執筆した、文庫本一冊分にもなる力作で良作である。

後日注:
 サムライスピリッツ天下一剣客伝が発売になり、新たな設定が判明した。
 雲飛が闇キ皇に憑かれた理由についても、はっきりとは描かれていないが我旺と同じように国を憂いた結果だと匂わせる。
 また、炎邪と水邪は千年前に雲飛を封じた八人の弟子の二人で、雲飛を封じた後に魔の力に魅せられて魔界へくだったという事も判明。
 ラスボスである「魔界を統べし我旺」のプロフィールで、尊敬する人に「自らを犠牲に闇キ皇を魔界に返した大陸の武芸者」とあるので、公式小説とこの雲飛EDを受け継いでいることが解る。

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