サムライスピリッツ零
ストーリー&エンディング考察1
アイヌ三姉妹編

2005年5月9日執筆:第一稿 5月13日加筆:第二稿 5月14日加筆:第三稿 8月10日修正:第四稿

レラ ナコルル リムルル
公式見てない人用の簡易紹介
 必要な戦いさえ拒むナコルルの中に潜む、心の闇が分離した存在。ナコルルが追いつめられ、心の均衡が崩れた時に現れる。狼のシクルゥと共に戦う。新キャラ。
公式見てない人用の簡易紹介
 アイヌの巫女。父はアイヌの戦士で、現在は守護鳥である鷹のママハハと共に旅に出ている。元祖ヒロイン。
旧作との違い:まだカムイの巫女ではないので、体力回復等が出来ない。
公式見てない人用の簡易紹介
 アイヌの巫女。ナコルルの妹で、氷の聖霊コンル仲が良い。
旧作との違い:戦闘スタイルとしては代わらないが、設定的にはかなり幼く、変化もある。全グラフィックが描き直されている。
オープニング
森の中
オープニング
蝦夷 カムイコタン
 コンル(氷の聖霊)とたわむれる妹リムルルと、それを見つめるナコルル。
リムルル「コンルー。待ってー。」
 リムルル、コンルを追ってフレームアウト。  コンルを追うリムルルを中心に画面が移動。ナコルルフレームアウト。
 鷹の鳴き声が聞こえる。
 ママハハ(鷹)が上空からナコルルの元へ飛んでくる。足には小刀。
ナコルル「ママハハ……? どうしたの?」
 ママハハ、ナコルルの手元に小刀(宝刀チチウシ)を落す。
ナコルル「これは……父様の刀!? ママハハ、父様に何かあったの?」
 ママハハ一声鳴く。
ナコルル「うそ……父様が……そんなの、信じられない……。ママハハ! 父様はどこに?」
 ママハハ、また一声鳴いてナコルルの後ろへ低空で飛んで行ってフレームアウト。ナコルルうつむいて、
ナコルル「リムルル、ごめんね。ちょっと出かけてくるね……。」
 急かすようにママハハが鳴く。
ナコルル「すぐ戻ってくるから、待っててね……。」
 コンルを追うリムルルの頭上を一瞬ママハハ(鷹)が通り過ぎ、画面外のナコルルの元へ。リムルルはそれに気づいていない。
リムルル「えへへへへー。コンルー。」
 じゃれ合うリムルルに、家の中から声がかかる。
「リムルルや。ラタシケプができたよ。ナコルルと一緒におたべ。」
リムルル「うわぁ。ありがとう、おばあちゃんっ。コンルには氷あげるからねっ。」
 リムルル、姉を呼ぼうとさっき姉といた場所へ。
リムルル「ねえさまー! おばあちゃんがラタシケプ作ってくれたよ。一緒に食べ……あれ? 姉様? 姉様……お外にいっちゃったみたい。なんで? うーん……コンル、姉様探しにいこっ!」
 自然豊かな森の中、ナコルルは巨大な熊と対峙している。
ナコルル
「やめて! お願い、落ち着いて!」
くま「グルルルル!」
 おもむろにタックル。吹っ飛ぶナコルル。画面が白くフラッシュして暗転。
 時が止まったような青い空間(背景はカムイコタンらしき雪景色)にナコルルが倒れている。その側にレラが立っていた。

レラ
「闘いなさい、ナコルル。逃げたって何も解決しないわ。あなた、死ぬわよ? 父様を探せないまま、自然を守れないまま、そしてリムルルを残して――」
 再び画面が白く光って暗転。森の中に倒れているナコルルが上半身を起こす。
くま
「グルルルルルルル!」
 おもむろにタックル。身動きが取れないナコルル。熊が眼前に迫った瞬間、時が止まり背景がモノトーンに(今回は森の中。何故かママハハだけは動いている)。ナコとクマの間にレラ出現。
レラ
「――死んじゃう。それでいいんだ? 私はそんなのお断りね。ナコルル、あなた、しばらくじっとしてなさい。私が戦うから。見てなさい。」
 背景に色が戻るとナコルルの倒れていた所からレラが現れ、ナコルルが点滅して消える。
レラ
「邪気にあてられて自分を見失ったのね。」
 一閃。
「ガアアアアアアアア!?」
レラ「父様を探しに行くの。あなた、邪魔よ。」
 画面が少し右へ移動し、熊やママハハがフレームアウト。
レラ
「シクルゥ!」
 叫んで少し飛び上がると、シクルゥが颯爽と現れ、跳んでいるレラを背に乗せる。
レラ
「父様のにおい、わかる? 追って!」

 熊はアイヌではキムン・カムイと呼ばれ、山の神という扱いである。そのため、巫女であるナコルルは余計に刃を向けられなかったと考えられる。
1〜4人目勝利後
1人目:シクルゥ、父様は? ……あっちね。急ぐわよ!
2人目:父様……すぐに行くわ。
3人目:嫌な気が広がりすぎね。これじゃ、父様の気が……。
4人目:自然の声も聞こえづらいわね……。
1人目:ママハハ、父様は? ……あっちね。急ぎましょう!
2人目:父様、どうか……無事でいて……。
3人目:禍々しい気配が強すぎて、父様が感じられない……。
4人目:お願い、自然よ、父様はどこ? 教えて。
1人目:姉様ー。かくれんぼ? 探しにいっちゃうからね!
2人目:姉様、いないみたい。もっと先かな?
3人目:コンル。姉様、近くにいない? うーん、ダメ?
4人目:姉様、どこまで行っちゃったんだろう?
小ボス「萬三九六(よろず・さんくろう)
(場所ランダム)
開始前デモ
 次の対戦相手が吹っ飛んで来て、夢路登場。
夢路「少しは楽しめると思いましたが……失望させてくれますね」
 こちらに気づく。
夢路「おや……いささか場違いな娘さんですが……。迷い込んだ、というわけでもなさそうですね。その服装……もしやアイヌの戦士。これは珍しい。さて、せっかくです。これも一期一会というべきでしょうか。我旺様に仕えるに値するか、試させていただきましょう。」
レラ「急いでるんだけど……力尽くってことかしら? そういうの嫌いじゃないわね。」 ナコルル「戦うつもりはありません! 人を探してるだけです。道をゆずってください」 リムルル「やぁっ! ひ、ひどいことするの? 姉様、探しにきてるだけだよ?」
 ステージに画面が切り替わって三九六の濃い顔がバストアップで登場。
三九六「ちょっと待てぇ! 次は俺様の番だぜ! が〜はっはっはっは! 鬼と恐れられたこの俺様に勝てるかなぁ? んん〜?」
 夢路の前に三九六が現れ、木槌の上に足を載せて力を誇示する。
夢路「いいでしょう。お任せします。次に会うときは我旺様に与する同志であると期待しておりますよ。」
 夢路跳び去る。
レラ「御託はいらないわ。かかってらっしゃい。 シクルゥ! 闘るわよ!」
三九六「クハァーッ! たまんねぇなぁ! いっぺん、若ぇ女をボッコボコに痛めつけてみたかったんだぜぇ!?」
ナコルル「どうしても……戦わなければなりませんか……」
三九六「クハァーッ! たまんねぇなぁ! こいつは高く売れそうだなぁ!」
リムルル「やだぁーっ! いじめないでよぉっ! 姉様、たすけてぇっ!」
三九六「はぁん? まだガキじゃねぇか? 二束三文だな、こいつぁ……ま、ええか。」
5人目(萬三九六)〜8人目勝利後
5人目:無駄な時間だったわね。シクルゥ、急ぎましょう。
6人目:胸騒ぎが止まらない……。嫌な気分ね。
7人目:父様の気が! シクルゥ、あなたもわかる?
8人目:チチウシが震えてる? 父様に反応してるの……?
5人目:ママハハ、急ぎましょう。早く父様のところに……。
6人目:駄目……立ち止まったら嫌なこと考えてしまう……父様……
7人目:……感じる。父様を感じる。
8人目:チチウシが震えてる……父様が近くに?
5人目:ううぅ……こわかったよぉ。ねえさま、だいじょうぶかな……?
6人目:コンル、はやく……はやく、ねえさまさがそう!
7人目:みちにまよっちゃったの……? コンル、ねえさま……どこ?
8人目:ぐすっ……ねえさまぁ……。
中ボス「黒河内夢路(くろこうち・ゆめじ)
黄泉ヶ原
開始前デモ
 戦闘ステージをバックに、夢路バストアップで登場。
夢路「おや、意外な方がいらっしゃいましたね。外見で判断すべきではありませんが……三九六が遅れをとりましたか。お尋ねしますが、我旺様に仕える心積もりはありませんか?」
レラ「邪魔しないで。……って言いたいところだけどこの禍禍しい気配、もしやウェンカムイの波動? あなたたち、自分たちが何を相手にしているのか、わかってるの?」

 ウェンカムイとは『悪い神』の事。なお『禍禍しい』は『まがまがしい』と読む、念のため。
ナコルル「この禍禍しい気配、もしやウェンカムイ? 私は人を探しているだけです! ですが…………アイヌの戦士の娘として大自然の為にも、見過ごせません!」

 ウェンカムイとは『悪い神』の事。なお『禍禍しい』は『まがまがしい』と読む、念のため。
リムルル「あっ! さっきのこわいひと……。ねえさま、さがしにきてるだけだもん! もぉ、ほっといてよぉ!」
夢路「残念です。まぁ……期待はしておりませんでしたが。されど、味方でなければ……敵と言わざるを得ません。返り血で服が濡れるのは好ましくありませんが……黒河内夢路、参る!」
中ボス勝利後
レラ「父様……。もしやこの戦にまきこまれて……?」 ナコルル「大自然の……おしおきです……」 リムルル「もうおうちにかえりたいよぉ……。ねえさまぁ……。」
最終ボス「兇國日輪守我旺(きょうごく・ひのわのかみ・がおう)
戦場(正式名称不明)
開始前デモ
 戦闘ステージをバックに、我旺バストアップで登場。会話セリフとは別に我旺の固定ボイスが流れます
ボイス(我旺)「我が道の後ろには、死屍累々……。鬼となりてゆくは覇道……夢幻の果て!」
我旺「夢路を倒せしますらおはうぬか。よい覇気をしておるわ!」
レラ「ウェンカムイに憑かれている!? ……もう手遅れね。けど、アイヌの戦士の娘として放ってはおけないわね。」 ナコルル「ウェンカムイに憑かれている!? 大自然の悲鳴が聞こえないの? 今すぐ身を退いて! 取り返しのつかないことに……。」 リムルル「もぉやだよぉ! ゆめじなんてしらない! ますらおなんてしらない! ねえさまにあいたいだけなの!」
我旺「國賊に与する下衆め! ならば聞けい! 我が志は、國賊徳川を打ち滅ぼし、真のますらおによる國を築くこと。ならば! うぬの如きますらおは得難き宝であるとは言え我が覇道の仇と成るなれば斬って捨てるもやむを得まい。ゆくぞ、ますらおよ! 死して時代の礎となれぃ!」
一本勝利後
戦場→地獄絵図(正式名称不明)
闇キ皇(くらきすめらぎ)への変身デモ
我旺「ふははははっ! 震えが止まらぬわ! うぬの如きますらおと相対する喜び、久しく忘れておったわ! だが、我が覇道、もはや曲がることも許されぬ。されど止まる事も許されぬ。ワシの心震わせしますらおよ! 礼を言おうぞ。最期に人の心を思い出したわ。そして……人を捨てる決意も固まったわ! 闇キ皇よ! 我が魂、存分に食らえぃ!」
 我旺、鎧武者姿に変化する。背景の戦場が一瞬で壊滅する。空には黒雲が渦を巻き、戦場は緑と青の炎が燃えさかる地獄絵図に。
レラ「ウェンカムイと融合するなんて……! 野放しにするにはあまりにも禍禍しすぎるわね。いくわよ、シクルゥ! 自然のためにも負けられない!」 ナコルル「ウェンカムイと融合するなんて……!」
ナコルル(リムルル……私、もしかしたら………)
ナコルル「ううん、自然のためにも負けられない!」
リムルル「うぅっ。き、きもちわるい……。すごいやなかんじ……。このひと、おかしいよ! ぐすっ……。ねえさまぁ……。」
死合開始〜決着
エンディング
 地獄絵図の戦場にレラが立っている。レラはナコルルの姿に変わると膝から崩れ落ちて倒れてしまう。
 画面が白くフラッシュして暗転、青く染まったカムイコタンらしき風景にナコルルが倒れている。ナコルルと重なるようにレラが現れる。
レラ「さすがにきつかったわね でも、勘違いしないで。あなたの言うとおり、闘わずに済むならその方がいい。だけど、闘わなければならないときがある、ってことは確かね。逃げてばかりじゃダメ……。闘ってばかりでもダメ……。ナコルル、ひとつに戻りましょう。私たちはずっと一緒だから。」
 レラ、風に霧散する。首にかけていた紅玉の首飾りだけが倒れているナコルルの上に落ちた。※1
 画面が白くフラッシュして暗転、戦場にナコルルが倒れている(地獄絵図版ではなく、通常の戦場。ママハハとシクルゥも一緒)。
 ナコルル立ち上がる。
ナコルル「……夢? 夢だったの? ううん、違う……。夢なんかじゃ……ない……。私は……ナコルル……。逃げてばかりじゃダメ……。闘ってばかりでもダメ……。…………。……………………。」
 何かを抱き留めるように胸の前で手を組む。
ナコルル「私たちはずっと一緒だから……。」
 戦場に座り込み、肩で息をする疲労困憊なナコルルに声が掛けられる。
「ナコルル……。」
 ナコルル立ち上がる。
ナコルル「!?」
 ナコルルの前に光り輝く童女が浮かび上がる(背丈の倍近くあるアイヌの服を着ており、頭には大きなバンダナ状の布を巻いている。背丈ほどもある長髪が広がっているように見えるが、明滅しているため、布か髪かの判断はつかない)。
浮かぶ童女「ナコルル……強き心を身に付けましたね……」
 (レラED 了)
ナコルル「カムイ? 私にカムイの御姿が見えるなんて……。」
カムイ「ナコルル。私はカムイの力を受け継ぐ巫女を探しています。ですが、その前にあなたに伝えるべきことがあります。」
 背景がモノトーンに変化。ナコルルとカムイの間に、アイヌの服を着た男性(ナコルルの父)が突然現れる。ナコルルの父はセリフではなく、心話といった演出で語りかける。
「私はアイヌの戦士。だが、戦士である前にお前のことを想う父親だ。お前は好きな男と一緒になり、子をはぐくむのだ。人として生きなさい、ナコルル。私はアイヌの最後の戦士としてこの命をカムイに捧げよう。だがナコルルよ、どうか悲しまないでおくれ。いっしょに笑うことは出来ないが、木々や野をかける風の中に私はいつもいる。さようなら、私の娘。※2
 ナコルルは「やだっ」と叫んで父に抱きつこうとするが、父はかき消えてしまい、手は空を切る。
ナコルル「――!」
 膝から崩れ落ちるナコルルにカムイが声をかける。
カムイ「ナコルルよ……あなたが望むなら、自然を守るカムイの力を授けましょう。」
ナコルル「…………父様……私は……カムイよ。もし、私がカムイの力を受け継がなかったら……」
カムイ「別のアイヌの巫女を選ぶことになりましょう。」
 画面が上へスクロール。
 闇キ皇の降臨した場所から少し離れた戦場。緑や青の炎もここまでは来ていない。
 そんな場所で、リムルルが姉を探して泣いている。

リムルル
「うぅ……ねえさま……どこにいるの、ねえさまぁ……ぐすっ……。」
 画面が切り替わり、再び暗雲が渦巻く空から下へスクロール。
 座り込んでいたナコルルが立ち上がる。
ナコルル「リムルル……。」
 祈るように手を合わせて目を閉じる。
ナコルル「カムイよ……。私は……カムイの力を…………」
 ナコルルED 了
 リムルル座り込む。
リムルル「ねえさまぁ……。」
 画面が上へスクロール。
 自然豊かな森の中に移り、画面が右へスクロール。
 今よりも幼いリムルルとナコルルがいる。
 リムルルは今のように座り込んで泣いている。
リムルル「ぐすっ……ぐすっ……。」
ナコルル「どうしたの?」
リムルル「わ、わたし、もう、ひとりぼっち……。これからずっと……ぐすっ。」
ナコルル「ううん、大丈夫。これからは姉様がいっしょ。」
 リムルル、座り込んだまま顔を上げてナコルルを見る。
リムルル「……ねえさま?」
ナコルル「そう。今日からは、私が姉様。ずっといっしょ。ね? だから、もう泣かないで……。姉様も悲しくなっちゃうから。」
リムルル「……ねえさま? わたしの、ねえさま? ずっと、ずっといっしょ?」
ナコルル「うん。姉様、ずっといっしょだから、ね……。さ、おうちに帰りましょう?」
リムルル「……うん、なかない。ねえさま、わたし、もうなかないよ。ねえさま……」
 画面が左へスクロールし、再び戦場の空へ。
 空から画面が下へ移ると、リムルルは相変わらず戦場に座り込んでいた。
リムルル「……泣いちゃダメ。姉様まで悲しくなっちゃう。わたしあのとき決めたんだもん。いつも笑ってるって……」
 そんなリムルルに声がかかる。
「リムルル!」
 ナコルルが駆け寄って来て途中で立ち止まる。リムルルも立ち上がって涙を拭くと、姉に走り寄って抱きつく。
リムルル「ねえさまぁっ! 姉様! どこに行ってたの!?」
ナコルル「ごめんなさい、リムルル。」
リムルル「すっごく、すっごく、心配したんだよ!」
ナコルル「まさか、リムルルが心配して探しに来てくれるなんて思ってもみなかった」
 ほんの一瞬間を置いて、※3
ナコルル「でもね、姉様なら大丈夫よ。わたしね……アイヌの戦士になるの。」
 ずっと姉に抱きついていたリムルル、ようやく離れる。
リムルル「え? じゃあ、姉様、父様とおんなじアイヌの戦士? わたしもアイヌの戦士になる! 姉様とずっと一緒に……。」
 ナコルル、妹に背を向ける。
ナコルル「いいの、リムルルは……アイヌの戦士は私だけ……。それより、カムイコタンに帰りましょう。」
リムルル「うん! 姉様、おうちに帰ろ!」
 リムルルED 了

補足と考察
※1
 この紅玉の首飾りは、リムルルのエンディングで幼い頃のリムルルが身に付けていたもの。ナコルルの闇の心として生じたレラだが、父を心配したり、妹の事を思ったりする点では何らナコルルと変わることがなかったという演出の一つだろう。

※2
 この演出とセリフは『真サムライスピリッツ』のナコルルのエンディングで、彼女が自然のために命を捧げた事をリムルルが感じ取ったというシーンと酷似している。その際ナコルルは「みんな、どうか悲しまないで・・・いっしょに笑う事はできないけれど木々や野原をかける風の中に私はいつもいます・・・だからリムルル、みんなとがんばって・・・」というセリフを残す。

※3
 これらのセリフは彼女の強がりと本心の中間、一種の役になりきる決意から来るセリフであると推測する。自分は大丈夫だと即答しない(できない)事や、アイヌの戦士になる前の「……」という辺りから、プレイヤーにそういった雰囲気を伝えようとしているのだろう。

 アイヌ三姉妹はスタッフの偏愛を受けたせいか、妙に演出が細かい。
 今作ではナコルルとリムルルの血が繋がっていないという事実が判明した(無論、後付け設定だが)。この設定が明らかになった時、ネット上では他キャラも驚愕の新設定が明らかになり始めていたために、批判の対象ともなった。SNKプレイモアでさえSNKの後継と認めていない人がいる中、悠紀という外注に作らせた作品で「ナコルルとリムルルは姉妹である」という根本を揺るがされては、古くからのファンは許し難いといった心情があったのだろう。私に置き換えて例えると、聞いたことのない会社が作った餓狼で「ギースはアンディの実父だった」みたいな設定が出来たようなものだろう。同じような例では、既に旧SNKが初期の餓狼で「テリーとアンディは実の兄弟ではない」という設定を作ってしまったという実績もある。
 しかし、今回の件は物語の演出としてはありきたりで陳腐ながら、ちょっと面白い。
 言ってみれば普通の姉妹よりも、一度家族を失ったという傷を持つリムルルだからこそ、あそこまでナコルルを慕うのだと言われた方が説得力が増すし、ストーリーも深まるものだ。
 これは同時に、「年月の経った後の作品では義理の姉妹という要素を微塵も見せず、本当の姉妹として『家族』になれたのだ」という設定でもある、そういった前向きな解釈が出来るのではないか?
 そもそもナコルルの後付け設定で言えば、真サムで死んだのに侍魂で「実は生きており、大自然に抱かれて眠っていただけ」というものや、20年後でも年を取っていない事の方が無茶というものである。
 父の遺言に関しては、やはりナコルルの中に深く浸透したのだろう。この三年後、羅将神ミヅキによって崩壊した自然を救うため、ナコルルは決死で身を投げ出す。それを察知したリムルルに語りかけた言葉が、先述のものである。だが「人として生きなさい」という言葉は守られなかった。ミヅキの件よりもさらに一年後、壊帝ユガの引き起こした凶事の際、彼女は普通の女の子のように暮らしてみたい、ガルフォードとも一緒に遊びたいと考えるが、カムイコタンへ戻る事となる。そして数ヶ月後、復活したユガの凶事の際には、告白をするガルフォードに対して「私はアイヌの巫女」だと泣くのをこらえながら謝絶する。この辺りのやり取りも、サム零をプレイしてから再び見ると感慨深いものがあるのではないだろうか。
 この他にも、リムルルのエンディングで妹に駆け寄ろうとするナコルルが、途中で立ち止まるという演出にも注目したい。これは容量的にも動作的にも事情があるうえ、話の主眼がリムルルなので、彼女が立ち上がって涙を拭くという動作と、彼女から駆け寄るという動作を入れる必要があったから、こういう演出になったのだとは思う。だが立ち止まっているナコルルのグラフィックは、カムイとのやり取りで迷っている際などに使われた、目を閉じて胸の前で手を合わせたポーズであり、妹の再会を喜ぶようなポーズではない。この事から筆者は、制作者側が「ナコルルの心にある複雑な感情を読み取って貰いたい」と選んだポーズではないかと推測した。
 何気なくちりばめられているが、リムルルの「わたしあのとき決めたんだもん。いつも笑ってるって……」というセリフも、後々のリムルルが常に笑っている事へのドラマ付けになっている。

 ナコルルがアイヌの巫女、アイヌの戦士という役目を演じるように、リムルルも幼いながら自分の決めた妹像のようなものを演じようと決め、それをやり通しているという事だろう。(ここでの「演じる」は嘘や虚構といったネガティブな意味ではなく、心構えや信念のようなポジティブな意味である)

 レラだけで進めると話がとても中途半端に終わるのは、少し残念な気がするが、レラは存在自体が不安定なキャラなので仕方がないと言えば仕方がない。ただの間に合わせキャラに見えないことも無いが、役どころとしては重要な位置にいる。
 レラを内包したナコルルだからこそ、後の天草やミヅキの動乱に立ち向かって行けたのだろう。
 零開始時点でのナコルルは、自分の命が危なくとも殺生を拒んでいる。そんな彼女が自然を守るために人を斬る決意をするというのは、闘うべき時には闘うというレラの意志を受け継いでいないと無理が生じる。レラは、ただ優しいだけでは駄目だという芯の強さをナコルルに与えるための存在だったのだ。
 なお、これまでの作品にいた"紫ナコルル"や、"ナコりもの"のレラは、今作のレラとは別であるというのが公式設定。名前や雰囲気などの借用元は"ナコりもの"のレラだが、そのレラは"紫ナコルル"を元に作られたであろうキャラなので、無関係とは言えないので注意。あくまでも、「別」なだけ。

 火鳥颯さんに資料提供して頂いた際にご指摘があったのだが、レラがチチウシを持っている事が一つ設定上の問題を生じさせている。
 というのは、ママハハがレラの側にいないという事。ママハハは宝刀チチウシの守護鳥で、真サムでもナコルルが武器を飛ばされた場合、ナコルルを無視してチチウシを取りに行ったり、チチウシの所有者が死んだら――というか戦闘不能になったら、それを置いてチチウシをカムイコタンまで届けに行ってしまう。つまりママハハにとってはナコルル<チチウシとなる。今作のレラはナコルルの体を使っているようなのだが(衣装が変わったり胸が大きくなるのはあえて気にしない)、チチウシは作中メッセージを見て解るようにレラが持って戦っている。しかし守護鳥ママハハはいない。確かにこれはミスである。まあ格闘ゲームであり、基盤もネオジオという10年以上前の古いもので制作している以上、レラの傍らにシクルゥとママハハを表示させるというのは無理があるので、仕方がないと言えば仕方がない(ネオジオでシクルゥを動かすのは、結構無理をしているらしいし)。
 ここはユーザー側が勝手に想像するしかない。いっその事、ママハハはナコルルがレラに変わった事に混乱しながら、画面の外、上空でレラが倒れるのを待っているという事にしてしまおうじゃないか(ぉぃ

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