剣客風説草紙

四之回
花諷院 和狆と骸羅
 小山のような体躯の男は、手にした湯のみを目の前の少女に差し出した。
少女は恐る恐るそれを受け取る。そして、意を決したようにその中身を飲もうとした。その時…。
「こりゃぁ〜、骸羅ぁ〜!!」
霹靂の如く響きわたる老人の怒鳴り声。
 ここ、枯華院の住職である花諷院 和狆は孫である骸羅に、叱咤の声を浴びせる。
「また命に酒を飲ませようとしたな! あれほどイカンと言うたじゃろうに、まだ判らんのか!」
 和狆の剣幕に気圧されつつも反論する骸羅。
「でもよう、命も、もう6つだぜ。酒ぐれえ飲んでもいい年なんじゃあねえか!? 俺なんざ6つの時には…」
 それを聞いた和狆の顔がさらに赤くなる。
「馬っ鹿も〜ん!お主を基準に考えるな! とにかく、酒はイカンのじゃ!!」
 喧嘩を続ける二人の間に、命が割って入る。
「私が…飲みたいっていったの。だから…骸羅のおじさまを叱らないで!」
 命がそんなことをいうはずが無い。骸羅をかばおうとしているのはあきらかだった。
「お前は優しいのぉ。…もうよい、骸羅! 鬼塚を掃除してこい! 命、この馬鹿者を手伝ってやってくれんか?」
 しぶしぶ命を連れて部屋出ていく骸羅。
 その後ろ姿を眺めつつ、和狆は呟いた。
「命には…恐ろしいほどの力が眠っておる。それは、正にも邪にもなる力じゃ。今は危ういところで均衡を保っておるが…。我を忘れてしまえば、必ずよからぬ方へ力は解放されるじゃろう。酒に酔うなど、もってのほかなんじゃぞ、骸羅」
 やがて、二人の姿が見えなくなると、和狆も奥の部屋へと消えていった。

(終わり)
引用元:芸文社「月刊ネオジオフリーク」2000年6月号
イラスト:北千里 画伯


 こちらはアスラの後、甦サムの前という事になります。こっそり斬紅郎の墓も登場。
 反面のアスラと色の娘、命(みこと)が6歳になっているという事は、1797年、和狆が76歳で骸羅が27歳。命がプレイヤーキャラとして登場する「剣客異聞録 甦りし蒼紅の刃 サムライスピリッツ新章」の14年前になります。
 和狆が呟いた「恐ろしいほどの力」とは命の中に潜む壊帝ユガのことでしょう。この14年後、20歳を目前に控えた命は目覚めようとする壊帝ユガの意識や、九鬼刀馬への恋慕などに苦しむ事になります。
 命を探しに来た覇王丸のセリフで和狆が生きている事がうかがえますが……90歳、さすが和狆。骸羅は41歳で覇王丸は48歳、みんな元気です。

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